
この記事でお伝えしたいこと
職場のニオイ対策は、個人の努力からではなく「全社の前提づくり」から始めます。
失敗しない順序は次の5ステップです。
- ルールを明文化する
- 全員向けに一斉に伝える
- 環境要因を潰す
- 個別対応は「人」ではなく「仕組み」で行う
- 定期的な情報提供で再発を防ぐ
個人を名指しする対応から始めた組織は、ほぼ確実に失敗します。
なぜなら、ニオイの指摘は「された側の人格や尊厳への攻撃」として受け取られやすいからです。
【身だしなみ全体の考え方や企業が取り組むべき理由について】
▶ビジネスの身だしなみとは?今、全社員が見直すべき3つの理由◀
夏になると増える、「あの人のニオイ、どうしましょう」
男性のメイク講師として企業様の印象管理セミナーに登壇する機会が多いのですが、初夏から夏場にかけて、人事の方や現場のリーダー層から最も多くいただくご相談が「社員のニオイ問題」です。
【現場で見られる相談の傾向】
弊社に寄せられるご相談のデータを取ってみると、毎年6月頃から一気に増加し、8月にピークを迎えます。
面白いのは相談者の立場です。
実は「上司から部下へどう指摘すべきか」というご相談よりも、「同僚のニオイに困っているが直接言えないので、会社として何とかしてほしい」という社員からの切実な声が大半を占めています。
上司の方自身も「自分が指摘してハラスメントと言われたらどうしよう」と固まってしまい、現場全体で身動きが取れなくなっているケースが非常に多いのです。
相談者が本当に困っているのは、ニオイそのもの以上に「傷つけずに伝える手段がないこと」です。
2026年6月に公表された「職場のにおいに関する実態調査」(一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会/22〜59歳550件)によると、職場で不快なにおいを感じても65.3%が「我慢する」と回答しています。
我慢する理由として挙げられているのは以下の通りです。
- 「相手を傷つけたくないから」(50.5%)
- 「言い方が分からないから」(37.5%)
- 「人間関係が悪くなるのが怖いから」(34.4%)
つまり、職場のニオイ問題の本当の正体は「におう人がいること」ではありません。
「角を立てずに伝えるための公式なルールや仕組みが社内に存在しないこと」なのです。
だからこそ対策も、個人への注意ではなく「仕組みづくり」から始める必要があります。
スメルハラスメント(スメハラ)とは?
スメハラとは、体臭・口臭・香水・柔軟剤などのにおいによって、周囲に不快感を与える状態を指す和製英語です。
ここで非常に重要なポイントは、スメハラには法律上の明確な定義がないという点です。
パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントのような法的な枠組みには含まれておらず、厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」でも独立した類型としては扱われていません。
これが対応を難しくしています。
禁止する明確な法律の根拠も、指導する手続きも、既存の社内規程の中には見当たらないからです。
だからこそ、会社として独自のルールを作らなければなりません。
また、多くの方が誤解されていますが、「本人が良い香りだと思っているもの」もスメハラの原因になります。 香水・柔軟剤・ヘアワックスなどは、本人が心地よいと感じている分だけ使う量が増えやすく、周囲の不快感につながりやすいのです。
対策の対象は「悪臭」だけではなく「強いにおい全般」であることを認識しておきましょう。
なぜニオイは、服装や髪型より深刻な問題になるのか
職場の身だしなみの中でも、ニオイが特に厄介な問題になる理由は3つあります。
1. 物理的に避けることができない
服装や髪型の乱れは見なければ済みますが、においは同じオフィス空間にいる限り、息を止めるわけにもいかず遮断できません。
前述の調査でも、他人のにおいによって「集中力が削がれた」人が53.6%、「接触を避けた」人が43.1%にのぼり、業務パフォーマンスを著しく低下させていることが分かっています。
2. 周囲から指摘されない
前述の通り6割以上の人が我慢を選ぶため、本人の耳にフィードバックが届きません。
結果として改善の機会が失われ続けます。
3. 本人が一番気づけない
人間の嗅覚には「嗅覚順応」という性質があり、同じにおいの中に居続けると、脳がそのにおいを感じ取らなくなります。
自分の体臭、自宅のニオイ、自分がつけた香水に気づけないのは、意識やマナーの問題ではなく「人間の生理現象」なのです。
この3つが重なると、職場内で「本人以外の全員が困っていて、本人だけが知らず、誰も言えない」という悲しい状態が完成してしまいます。
職場のニオイ対策 5つのステップ
それでは、企業として具体的にどのような手順で対策を進めるべきか、5つの実務ステップで解説します。
ステップ1:社内ルールとして明文化する
最初に行うべきは、個人への注意ではなく文書の作成です。
「ガイドライン」や「身だしなみ基準」として、以下の項目を明文化します。
- 目的(何のために定めるか:働きやすい環境づくりのため)
- 対象範囲(全社員・パート・派遣社員など)
- 基準(清潔感の維持、強い香水や柔軟剤の使用自粛など)
- 配慮事項(体質、健康上の理由、宗教等への配慮)
- 運用体制(相談窓口や担当部署)
ここを飛ばして個人に注意すると、すべて「言った人の主観や好みの押し付け」になってしまいます。
ステップ2:全社員に一斉に伝える
ルールができたら、特定の誰かを呼び出すのではなく、朝礼・全社メール・研修・新入社員オリエンテーションなどの場を使って「全員が同じタイミングで同じ情報を受け取る形」で周知します。
「〇〇さんのために作られたルールだ」と勘づかれた瞬間に、そのルールは角を立てずに運用する機能を失ってしまいます。
ステップ3:環境要因を潰す
ニオイの発生源は個人だけとは限りません。
会社側が提供している環境に問題がないかを必ず確認します。
- 空調・換気設備(においがオフィス内に滞留していないか)
- 喫煙所からの動線(喫煙直後のタバコ臭が執務室に持ち込まれていないか)
- 休憩室・お弁当のにおい(換気扇の有無)
- ユニフォーム・作業着の洗濯頻度(会社支給の枚数は十分か)
例えば、制服の洗い替えが1着しか支給されていないのに「毎日清潔な着やすさを保ちなさい」というのは無茶な要求です。環境を整えるのは会社の責任です。
ステップ4:個別対応は「人」ではなく「仕組み」で行う
全体周知を経ても改善されず、どうしても個別の面談が必要な場合は、上司が一人で抱え込まず、人事や産業医と連携して「社内ルールに基づいた手続き」として淡々と行います。
【具体的な切り出し方や面談の伝え方について】
▶関連記事「スメハラはどう伝える?相手を傷つけずに改善へ導く面談マニュアル」
ステップ5:定期的な情報提供で再発を防ぐ
一度注意喚起をしただけでは、時間が経つと風化します。汗をかきやすい初夏(6月)や、厚着になって湿気がこもりやすい秋口(10月)など、季節の変わり目に「身だしなみ・エチケットだより」といった形で全社に情報提供を行いましょう。
【研修現場で使っている独自のチェック方法】
弊社が企業研修でお配りしているチェックリストでは、ニオイの発生源を単に「体臭」と括らず、以下の「4つの発生源(体・口・衣・環境)」に分類してチェックしていただいています。
- 体(からだ):汗をかいた後の放置、頭皮や耳のうしろの皮脂
- 口(くち):朝の口臭、コーヒーやタバコ直後のケア不足
- 衣(ふく):生乾きの不快臭、洗えていないスーツやネクタイ、過度な柔軟剤
- 環境(かんきょう):脱いだ靴、デスク周りの食べ残し、濡れた折りたたみ傘
こうして発生源を細分化して提示すると、「自分は体臭はないけれど、服の生乾き臭は気をつけよう」「タバコの後の口臭ケアが必要だな」と、社員の皆さんが自分事として対策を選べるようになります。
自分で気づけないニオイを、どう自己点検するか
嗅覚が自分のニオイに順応してしまう以上、「自分の体を鼻で嗅いで確かめる」のは不可能です。自己点検は「時間」と「他者」の視点で行うのが鉄則です。
- 起床直後の「口元」を意識する
睡眠中は唾液が減って細菌が増えるため、口臭が最も強くなります。朝のケアが一日全体の口臭予防の肝です。 - 外から室内・自席に戻った瞬間を逃さない
外気で嗅覚がリセットされた直後は、自分のデスク周りや服のにおいに気づける唯一のチャンスです。 - お酒を飲んだ翌朝は「体臭+呼気」を疑う
分解しきれなかったアルコールは、息だけでなく全身の汗腺からニオイとして染み出します。 - 香水や柔軟剤は「昨日と同じ量」を疑う
自分の鼻が慣れると、無意識に使用量が増えていきます。「物足りない」と感じるくらいが適量です。 - 信頼できる家族やパートナーに「一度だけ」確認する
最も確実な方法です。「今日、服から生乾きのニオイしてない?」など、具体的に聞くのがコツです。
やってはいけない対応(禁じ手)
職場のニオイ対策において、良かれと思ってやってしまいがちな「間違った対応」をまとめました。
これらは問題を悪化させるだけなので避けてください。
- 匿名の貼り紙や投書箱を使う
→ 「誰のことだ?」と犯人探しが始まり、職場全体の疑心暗鬼を生んで雰囲気が悪化します。 - 朝礼や全体ミーティングで遠回しに注意する
→ 全員が「〇〇さんのことだな」と察し、本人が影で浮いてしまう悲惨な結果になります。 - 該当者のデスクに無言で消臭剤やスプレーを置く
→ 名指しで非難するよりも陰湿で、受け取った相手の精神的ダメージが極めて大きくなります。 - 同僚同士で「ねえ、あの人におわない?」と相談する
→ 単なる悪口や噂話として広がり、いじめやハラスメントの構図を作ってしまいます。 - 席替えや部署移動で解決しようとする
→ 原因が解決していないため、移動先で同じトラブルが再発するだけです。
これらの共通点は「直接向き合うのを避けて、遠回しに気づかせようとしている」ことです。
遠回しな方法ほど嫌味として伝わり、相手を深く傷つけてしまいます。
よくある質問
Q1. 職場で香水や柔軟剤を完全に「禁止」すべきですか?
A. 完全禁止は反発を生みやすく、運用も難しくなります。「禁止」よりも「ほのかに香る程度にとどめる」「香水はつけないか、腰より下につける」といった「量の具体的な基準」を示す方が効果的です。
Q2. 制服のニオイについて、会社はどこまで負担すべきですか?
A. 洗い替えの枚数が不足している、あるいは特殊な作業着で自宅洗濯が難しい場合は、会社側で予備を支給するかクリーニング代を補助する仕組みを作るべきです。環境を整えた上で、管理規定として清潔保持を求めましょう。
Q3. 本人の努力ではどうにもならない病気が原因の場合は?
A. 多汗症、糖尿病、歯周病、胃腸疾患など、医学的な理由でニオイが発生しているケースもあります。この場合、個人の努力やマナーの問題として責めるのは絶対NGです。産業医や専門医を受診できるよう、人事や保健師を通じて医療アプローチとしてプライベートにサポートする設計にしてください。
ニオイ対策は「個人の問題」にした瞬間に失敗する
職場のニオイトラブルは、個人のマナー不足ではなく、「会社の中に伝える仕組みが存在しないこと」から起こる組織の課題です。
我慢している6割以上の社員を守り、そして無意識のうちに周囲から避けられてしまう本人を守るためにも、まずは会社として明確なルールを言語化することから始めてみてください。
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出典一覧
- 一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会「職場の臭い(におい)に関する実態調査」2026年6月19日公表(有効回答550件)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000073801.html - 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要(令和5年度厚生労働省委託事業)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001259093.pdf


