マスクを着用したビジネスパーソンと「スメハラはどう伝える?部下を傷つけない指導の手順と禁じ手」の文字

この記事でお伝えしたいこと

部下のニオイは「個人への指摘」ではなく「全社ルールの適用」として伝えます。

具体的には、以下の手順を踏むことが重要です。

  1. ルールを先に作る(会社としての基準を明文化する)
  2. 1対1・短時間・事実ベースで伝える(主観や周囲の意見を出さない)
  3. 改善手段とセットで渡す(「気をつけて」で終わらせない)
  4. それ以降は蒸し返さない(一度伝えたら二度目は言わず仕組みへ移行)

伝える際の言い回しをどれだけ工夫しても、前提が崩れていればうまくいきません。
変えるべきは言葉のテクニックではなく、「伝えられる前提(会社のルール)」です。

「言えない」を放置すると、組織で何が起きるか

上司が言えない。同僚も言えない。
その結果、職場で起きるのは「静かな孤立」です。

2026年6月に公表された「職場のにおいに関する実態調査」(一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会/22〜59歳550件)では、他人のにおいによって「接触を避けた」と答えた人が43.1%、「集中力が削がれた」と答えた人が53.6%にのぼっています。

誰も注意してくれないまま、周りの人がすっと距離を置き、大切な連絡や雑談からその人が外れていくのです。

【実際の現場で見られる問題】
弊社に駆け込まれる管理職の方からのご相談で最も胸が痛むのは、相談を受けた時点で、すでに本人がチームから完全に孤立しているケースです。

周囲の社員は限界を迎えており、本人は「なぜか急にみんなの態度が冷たくなった」「自分だけ重要な相談をしてもらえない」と深く傷ついています。
ニオイを指摘して傷つけるのを恐れるあまり放置することは、優しさではありません。理由も知らされないまま職場での関係性や評価を失わせてしまう、最も残酷な対応になってしまうのです。

【ニオイ対策の全社的な進め方や環境改善について】
 ▶関連記事「職場のニオイ対策は何をすればいい?夏に効く5つの実務ステップ」](※対策記事A02へのリンク)

なぜニオイの指摘は、ハラスメントになりやすいのか

身だしなみ指導の中でも、ニオイの指摘がこれほど難しいのは、「その人の身体・体質そのもの」に触れる指摘になりやすいからです。

服装や髪型は「本人が選んだもの」への指摘ですが、ニオイは「その人自身」への拒絶として受け取られやすく、同じトーンで話しても刺さり方が全く異なります。

また、伝え方や状況によっては、パワーハラスメント(個の侵害や精神的な攻撃)と判定されるリスクもあります。
以下のような対応はパワハラと評価されやすいため厳禁です。

  • 他の社員がいる前や執務室で指摘する
  • 何度も繰り返し同じ内容で責め立てる
  • 複数人の上司や同僚で囲んで伝える

一方で、理解しておくべき重要な事実があります。
「スメハラ(スメルハラスメント)」それ自体には明確な法律上の定義がなく、厚生労働省の枠組みでも独立したハラスメント類型としては扱われていません。

つまり「スメハラだから直してください」という説明は、社内の指導根拠として非常に弱いのです。
「パワハラと言われるのが怖いから注意できない」と固まるのではなく、まずは会社としての公式な基準(ルール)という根拠を作ることが先決になります。

伝える前にやるべきこと(順序が9割)

多くの管理職の方が「なんて切り出せば傷つかないだろうか」という言葉選びから考え始めます。しかし、ここが最大の落とし穴です。

正しい順序は以下の通りです。

  1. ルールを作る(身だしなみやニオイに関する基準を全社文書にする)
  2. 全社に周知する(特定の個人を指さず、全員が同じ情報を受け取る)
  3. そのうえで、個別に「ルールに沿った確認」として伝える

この順序を踏むだけで、上司の発言の意味と部下の受け取り方が大きく変わります。

<ルールがない状態で伝えた場合>
・上司の発言:「私は、あなたがにおうと感じているんだけど…」
部下の受け取り方:上司個人の主観による攻撃、個人的な嫌悪感
上司のリスク:個人の感情論として対立し、ハラスメントを主張されるリスク

<ルールがある状態で伝えた場合>
・上司の発言:「全社に周知した身だしなみ基準について、確認をしています」
部下の受け取り方:社内手続きの一環、自分だけが狙い撃ちされたわけではない
上司のリスク:職務上のルール運用として説明がつく

全く同じ「改善してほしい」という内容でも、前提に公式ルールがあるかどうかで別の行為になります。
必要なのはコミュニケーションの技術ではなく、発言を裏付ける会社の仕組みです。

【支援先で実際に使われているガイドライン文面の実例】
弊社がガイドライン作成を支援する際、最も大切にしているポイントがあります。

ルールの目的欄には『体臭を完全に消すこと』ではなく、『オフィスに強いニオイを持ち込まないこと、および周囲への配慮を行うこと』と記述します。

前者にしてしまうと「生理的に不可能な要求」になり、詰んでしまいます。
後者にすることで「制服の洗濯頻度を上げる」「スプレーを使う」「強い香水を控える」といった本人の行動で達成できる基準になり、指導の正当性が生まれるのです。

実際の伝え方:使える言い方/避ける言い方

1対1で面談する際、具体的にどのような言葉を使い、どのような言葉を避けるべきかを整理しました。

切り出し方>

○ 使える言い方:「全社で新しくスタートした身だしなみ基準について、個別に対象者全員へ確認を行っています」
✕ 避ける言い方:「ちょっと言いにくいんだけど…」「実は前から気になっていて…」

<事実の提示>

○ 使える言い方:「基準の中にある『衣類のケア』『香りの強さ』の項目について、現状を確認させてください」
✕ 避ける言い方:「みんなが『におう』って気にしているよ」「周りから苦情が出ているよ」

<判断の根拠>

○ 使える言い方:会社のルール(明文化されたガイドライン)
✕ 避ける言い方:上司個人の感想や、部署内の噂

<主語(誰の意見か)>

○ 使える言い方:「会社として」「社内規定として」
✕ 避ける言い方:「私が」「みんなが」

<実施する場所と時間>

○ 使える言い方:個室(会議室)、1対1、所要時間3分以内で事務的に終える
✕ 避ける言い方:執務室、立ち話、飲み会の席、ダラダラと長く話し込む

<面談の締めくくり>

○ 使える言い方:「会社で推奨している消臭スプレーや対策リストを渡すので、試してみてください」
✕ 避ける言い方:「とにかく気をつけてね」「自分でなんとかしてね」

「みんなが言っているよ」は絶対に使ってはいけない最悪のワードです。
本人からすれば「職場全体から拒絶された」という絶望感を味わうことになります。

また、「言いにくいんだけど…」という前置き(共感のポーズ)も不要です。
深刻な雰囲気を醸し出すほど相手は警戒し、深く傷つきます。
冷静に、感情を交えず、「事務的な手続き」として短時間で伝えることが、最も相手の尊厳を守る配慮になります。

【管理職研修のロールプレイで起きる失敗パターン】
弊社の管理職研修でロールプレイを行うと、9割以上の上司が「話しすぎて自滅する」という失敗を犯します。

「言いにくさ」や「気まずさ」に耐えかねて、上司側がペラペラと
「いや、君の気持ちもわかるんだけどね」
「私も昔注意されてさ…」
と余計な弁明を始めてしまうのです。

話が長くなればなるほど部下は追い詰められます。
面談は「基準の提示」「対策グッズの提示」「終了」の3ステップ、わずか3分で切り上げるのが鉄則です。

伝えたあとにやること

面談が終わった後のフォロー体制も、あらかじめ決めておきましょう。

  1. 具体的な改善手段を渡す

    「気をつけて」という精神論ではなく、「この制服スプレーを使う」「朝、汗拭きシートを使う」といった行動レベルの手段をセットで伝えます。
  2. 必要な費用は会社が負担する

    制服の予備支給や消臭用品など、会社の基準を満たすために必要なケア費用は、可能な限り会社負担を検討してください。指導の説得力が段違いに上がります。
  3. 改善の「期限」を切らない

    体質や体調に起因する場合、期限を切ることは達成不可能なプレッシャーを与えます。様子を見ながら伴走する姿勢が大切です。
  4. 二度目の直接指導は上司個人で行わない

    一度伝えて改善が見られない場合、同じ上司が何度も言うとパワハラのリスクが高まります。二度目以降は上司個人で抱え込まず、人事や産業保健スタッフへバトンタッチします。
  5. 医療起因を疑い、産業医へつなぐ

    多汗症、歯周病、糖尿病などの病気が原因の可能性もあります。上司が素人判断で「病気じゃないか?」と口にするのはNGです。「体調面で不安があれば産業医に相談できるよ」と専門家へつなぎましょう。

禁じ手7つ

部下のニオイ対策において、絶対にやってはいけない「禁じ手」をまとめました。

  1. 全体注意で見せしめのように伝える(社内で「誰のことだ」と犯人探しが始まります)
  2. 匿名の投書や張り紙で知らせる(本人は「自分だ」と気づき、強い人間不信に陥ります)
  3. 同僚に事前相談する(噂として広がり、陰湿ないじめの構図が完成します)
  4. 席替えや配置転換で逃げる(移動先で同じ問題が再発し、根本解決になりません)
  5. お酒の席で冗談っぽく伝える(一生残るトラウマになり、信頼関係が崩壊します)
  6. 机の上に無言で消臭剤を置いておく(言葉で伝える以上に残酷な拒絶になります)
  7. チャットやメールで通知する(文章だけだとニュアンスが冷酷に伝わり、記録として逃げ場がなくなります)

これらに共通しているのは、「上司が嫌われまいとして、直接向き合うのを避けている点」です。遠回しなやり方ほど、受け取る側を深く傷つけます。

よくある質問

Q1. 本人に全く自覚がない場合はどう切り出せばいいですか?
A. 人間の鼻は自分のニオイに慣れる(嗅覚順応)ため、自覚がないのが当たり前です。「なぜ気づかないんだ」と責めるのではなく、「自分のニオイは自分では気づけない生理現象だからこそ、会社として全社員に基準を提示して確認している」というスタンスで伝えてください。

Q2. 女性上司から男性部下(またはその逆)へ伝える場合、注意点はありますか?
A. 異性だからといって特別な言い回しをする必要はありません。性別を意識しすぎると、かえってセクハラや不自然なニュアンスを生みます。あくまで「個人の意見」ではなく「会社のルール適用」として、淡々と手続きを行うことが最大の予防策です。

Q3. 取引先や顧客のニオイが気になる場合はどうすればいいですか?
A. 自社の社内ルールを社外の方に適用することはできません。基本的には直接指摘せず、面談室の換気を強める、座席の距離を保つ、面談時間を短めに設定するといった「環境側の工夫」で対応します。

Q4. 本人から「ハラスメントだ!」「そんなの納得いかない」と拒否されたら?
A. 感情的に反論された場合は、その場で議論や説得をしようとせず、一度面談を打ち切ってください。「あなた個人を否定しているのではなく、会社の安全で快適な職場環境づくりのためのルールです」と静かに伝え、後日、人事担当者や産業医を含めた第三者を交えて冷静に対応を引き継ぎます。

まとめ:伝え方の技術より、伝えられる「仕組み」を

部下のニオイを指摘できずに悩むのは、上司の方の勇気や優しさが足りないからではありません。
会社が明確な基準を示していないため、発言がすべて『上司個人の好き嫌い』になってしまう構造に原因があります。

6割以上の社員が職場のニオイに悩みながら我慢し、伝える側の管理職も疲弊している——。
この状況を打破するのは、言葉のテクニックではなく「全社ルールの明文化」です。

  1. ルールを作る
  2. 全社に周知する
  3. 1対1で淡々と確認する

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