
この記事でお伝えしたいこと
身だしなみとは、自分の好みを表現する「おしゃれ」ではなく、
相手の不快と誤解を取り除くための配慮です。
いま見直しが必要な理由は3つあります。
① 国が服装の基準を降ろすのをやめ、判断が各社に委ねられたこと。
② マスク常用が終わり、ニオイ・肌・口元が再び可視化されたこと。
③ 印象は個人ではなく「会社」の評価として残ること。
つまり身だしなみは、個人のセンスの問題ではなく、
企業が設計すべき「仕組み」の問題になっています。
「うちの社員の身だしなみは大丈夫か」と、
即答できる会社は多くない
突然ですが、皆さまにお聞きしたいことがあります。
-
- 自社の服装規定を作ったのは、何年前でしょうか?
- クールビズの案内は、毎年同じ文面を使い回していないでしょうか?
- そして——部下の「ニオイ」や「清潔感」が気になったとき、何と声をかければいいか、社内に明確な答えはあるでしょうか?
この3つに即答できないとしても、決してご自身や社員の方々を責めないでください。
私の元に寄せられるご相談の現場でも、まったく同じ悩みが溢れています。
【実際の現場の声】
「【クールビズOK】と伝えたら、社員がヨレヨレのポロシャツとスニーカーで出社してきた。注意すべきなのか、どこまでが許容範囲なのか判断がつかない」
(製造業・人事ご担当者様)
こうしたトラブルが起きるのは、社員の方々の常識や意識が足りないからではありません。会社として「判断するための明確な基準」が存在していないからなのです。
身だしなみとは?「おしゃれ」「マナー」との違い
まず整理しておきたいのが、言葉の定義です。
私は研修の冒頭で、必ずこの言葉の違いをお話しします。
身だしなみとは、相手の受け取り方を基準に、不快と誤解を取り除く配慮のことです。
ここが「おしゃれ」との決定的な違いです。
3つの言葉は、それぞれ基準も目的も異なります。
- おしゃれ
- 基準:自分
- 目的:自己表現
- 評価する人:自分
- 身だしなみ
- 基準:相手
- 目的:不快と誤解を取り除くこと
- 評価する人:相手
- マナー
- 基準:その場
- 目的:場の秩序を守ること
- 評価する人:その場にいる全員
「おしゃれは足し算、身だしなみは引き算」です。
おしゃれが「自分をどう魅せるか」を考えるポジティブな行為なら、身だしなみは「相手のビジネス上の判断を邪魔していないか」を確認する引き算の行為です。
そして「マナー」は行動の型(名刺交換の手順など)であり、身だしなみはその前提となるお互いの状態です。
どれだけ丁寧で正しい名刺交換をしても、その手元の爪が伸びて汚れていれば、相手の記憶に残るのはマナーの良さではなく「爪の汚れ」になってしまいます。
【メイク講師としての実感】
男性向けセミナーでこの違いをお伝えすると、毎回のように「今まで『おしゃれをしろ』と言われている気がして抵抗があったけれど、引き算の配慮なら納得できた」という感想をいただきます。
「自分を飾る必要はない。相手に違和感を与えない状態を作ればいいんだ」と理解された瞬間、参加者の目の色が変わり、「じゃあ自分の肌や襟元はどう見えているだろう?」と、質問の質がぐっと実践的に変わるのです。
なぜ今、身だしなみを見直す必要があるのか?
なぜ今、多くの企業で身だしなみの再設計が急務となっているのでしょうか。
理由は明確に3つあります。
理由1:国が「基準」を降ろすのをやめた
長年親しまれてきたクールビズですが、環境省は近年、全国一律の実施期間(「5月1日〜10月31日」など)の設定を行っていません。
現在は、各地域の気候や職場の環境に応じて、各自の判断で快適かつ働きやすい服装を選ぶ方針(「デコ活」やオフィス服装改革)へと大きく舵を切っています。
方針としては非常に柔軟で素晴らしいことです。
しかし、企業の実務においては意味がガラリと変わります。
「国が一律で決めてくれる時代」が終わり、「各社が自分たちで決める時代」になったのです。
具体的な基準を作らずに「各自の判断で自由にしていいよ」とだけ伝えると、社員個人の解釈にゆだねられます。
「ノーネクタイで清潔ならOK」と思う人もいれば、「自由ならTシャツ・短パンでもいいはず」と解釈する人も出てきます。
その結果、社内や取引先との間で印象のギャップや摩擦が生まれてしまうのです。
理由2:隠れていたものが、再び見えるようになった
マスクの常用期間が終わり、かつての日常が戻ってきました。
それに伴い、数年間マスクの下に隠れていた「口元」「肌の状態」、そして「ニオイ」が再び可視化されるようになっています。
これは決して気のせいではありません。
2026年6月に公表された「職場のにおいに関する調査」(一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会/22〜59歳550件)によると、他人のにおいによって「集中力が削がれた」と答えた人が53.6%、「接触を避けた」と答えた人が43.1%にのぼっています。
ニオイや清潔感の問題は、単なる気分の問題を超えて、「業務生産性を直接下げるリスク」として職場に存在しているのです。
理由3:印象は、個人ではなく「会社」に残る
お客様や取引先は、身だしなみが整っていない社員を見たときに「〇〇さん個人がだらしないな」とは思いません。
「この会社は、社員の教育や管理が行き届いていない会社なのかな」と受け取ります。
印象の帰属先は、個人ではなく「会社(組織)」です。
営業の初回商談での成約率、採用面接で求職者が受ける会社の印象、さらにはSNSや口コミでの評価——。
これらすべての接点で、社員一人ひとりの身だしなみが会社のブランド価値を左右しています。
身だしなみは総務のお願い事ではなく、立派な「ブランド管理(印象管理)」の戦略なのです。
【経営視点での実例】
以前、弊社がコンサルティングに入った企業様で、競合他社に商談で負けた理由を追跡調査したことがあります。
すると「提案内容や価格には満足していたが、担当者の清潔感に少し不安があり、長期的なパートナーとして社内を通しにくかった」という本音が相手方の購買担当者から漏れ聞こえてきたことがありました。
たった一度の「見た目の違和感」が、現場が積み上げた素晴らしい提案を一瞬で無駄にしてしまう。これは企業にとってあまりにも大きな損失です。
身だしなみが整っていない状態は、何を失わせるのか
身だしなみを整えていないと、一体何を失うのでしょうか。
失うのは「好印象」ではありません。
本当に失うのは、「話を内容で聞いてもらう前提(土台)」です。
人は、相手を見た瞬間に無意識のうちに信頼性を推し量っています。
プリンストン大学の心理学者ウィリスとトドロフの研究(2006年)では、人間の顔を見たわずか100ミリ秒(0.1秒)という一瞬で形成された信頼性の判断は、その後に時間をかけてじっくり観察した場合の評価とほぼ変わらなかったことが報告されています。
誤解していただきたくないのですが、これは「見た目ですべてが決まる」と言いたいわけではありません。
商談の成否が最初の0.1秒で決まるはずもありません。
正確にお伝えしたいのは、「第一印象で生じた違和感は、その後にいくら良い話をしても『フィルター』として残り続ける」ということです。
「本当にこの人に任せて大丈夫かな?」という余計な疑念を相手に抱かせてしまうと、それを打ち消すために無駄な説明コストや時間が必要になります。
身だしなみを整える最大の目的は、マイナススタートをゼロに戻し、自分の話をフラットに聞いてもらう環境を作ることなのです。
補足:時代とともに変わった「見た目が55%(メラビアンの法則)」の解釈
今までの研修では、「メラビアンの法則(視覚情報55%、聴覚情報38%、言語情報7%)」を引用し、「話す内容より見た目が9割大事」と説明することが一般的でした。
しかし、時代の変化とともにコミュニケーション研究の理解もアップデートされ、現在ではこの解釈が見直されています。
アルバート・メラビアンの実験は、本来「言葉・声のトーン・表情が矛盾しているときに、人がどの情報を優先して相手の感情を読み取るか」という限定的な状況を検証したものです。
「話す内容(言葉)には7%しか価値がない」という意味ではありません。
現代のビジネス現場において、身だしなみを整える理由は「見た目で相手をコントロールするため」ではありません。
過度な強調ではなく、「相手のビジネス上の正しい判断を邪魔しないため」という誠実な理由を伝えること。
時代が変わった今だからこそ、本来の意味に立ち返り、相手への引き算の配慮として身だしなみを伝えることが、社員の皆さまの納得感と主体的な行動につながります。
何から着手すべきか(優先順位の型)
では、自社の身だしなみ基準を見直す際、何から手を付けるべきでしょうか。
弊社では、以下の「本人が自分では気づけない順(=相手に与える不快感が大きい順)」の5ステップでおすすめしています。
- ニオイ(体臭・口臭・タバコ・柔軟剤)
→ 本人の自覚が最も薄く、周囲も指摘しにくい最大の盲点。 - 清潔感(髪・肌・髭・爪・靴・服のシワ)
→ 「手入れの形跡」が見えるかどうか。メイクやスキンケアもここに含まれます。 - 服装のTPO(サイズ感・組み合わせ・傷み)
→ 高級な服かどうかではなく、相手や場所に合っているか。 - 立ち振る舞い(姿勢・視線・所作)
→ 動的な印象。堂々としているか、落ち着きがあるか。 - 接遇(言葉遣い・対応力)
→ 状況に応じて相手に寄り添った応対ができるか。
多くの企業様が「服装規定(3番)」の改定から手をつけて失敗してしまいます。
どれだけ素晴らしいスーツの着こなしルールを作っても、1番のニオイや2番の髪・肌の手入れが放置されていれば、相手が受ける「不快感」は消えないからです。
【研修カリキュラムでのこだわり】
弊社がご提供する男性向けメイク・身だしなみ研修でも、一番最初のセッションで扱うのは「スキンケア」や「ニオイ対策(エチケット)」です。
自分の肌の状態を知り、鼻毛や爪の手入れ、ニオイのケアといった「マイナスをゼロに戻すベースメイク(土台作り)」から徹底します。
この土台が整って初めて、健康的に見せるBBクリームの使い方や、服装のサイズ感といった「プラスの印象作り」が生きてくるのです。
よくある質問
Q1. 身だしなみのルールを厳しくすると、ハラスメントになりませんか?
A. ルールが存在しない状態で、上司が個人の感覚で「君、なんか清潔感がないよ」などと指摘するとハラスメントリスクが高まります。
容姿や体型、体質そのものには触れず、「毎日髪を整える」「服のシワを伸ばす」「爪を切り揃える」といった「本人の努力と手入れで再現できる状態」をルール化・言語化しておけば、むしろハラスメントを防ぐガイドラインになります。
Q2. クールビズは結局、いつからいつまでに設定すればいいですか?
A. 一律の期間設定は不要です。「最高気温〇度以上の日はノージャケット可」「社外の方と会う時はジャケット持参」など、気候や業務(TPO)に応じた具体的な行動基準を社内で設けることをおすすめします。
Q3. 男性社員にもメイクやスキンケアを義務付ける必要がありますか?
A. メイクを義務付ける必要は全くありません。目的は「化粧品を使うこと」ではなく「健康的で清潔な印象を与えること」です。スキンケアで肌荒れを防ぐ、BBクリームでクマや青ひげを自然にカバーする、といった選択肢はあくまで「清潔感を満たすための有効な手段の一つ」として提案するのが現代的です。
Q4. 実際の研修は、どのような形式でどれくらいの時間が必要ですか?
A. 弊社の標準プログラムでは、「対面ワークショップ形式(1回90分〜120分 / 推奨人数15〜20名)」を推奨しています。講義だけでなく、実際に肌診断ライトを使って自分の肌状態を確認したり、メンズ用アイブロウやBBクリームを試す体験型の時間を設けることで、社員の納得感と行動変容が劇的に高まります。
身だしなみは、個人のセンスではなく「会社の仕組み」で解決する
身だしなみとは、自分のこだわりを表現するおしゃれではなく、相手基準で不快と誤解を取り除くための誠実な配慮です。
国が一律の基準を出さなくなった今、社員を迷わせないためにも、企業が自社の文化やビジネスに合った「身だしなみの基準」を明文化し、仕組みとして提供することが求められています。
「うちの社員にどう伝えていいかわからない」
「具体的にどんなガイドラインを作ればいいか知りたい」
とお悩みの人事・経営層の皆さま。
株式会社メイクアンリミテッドでは、企業ごとの課題や目的に合わせたオーダーメイドの身だしなみ研修・メイク研修をご提案しております。
まずはサービス内容をご覧いただき、貴社に合った研修をご検討ください。
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出典一覧
- 環境省「令和6年度クールビズについて」報道発表資料
https://www.env.go.jp/press/press_03119.html - 政府広報オンライン「適正な室温で快適に!クールビズの提案」
https://www.gov-online.go.jp/article/201106/entry-9580.html - 一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会「職場の臭い(におい)に関する実態調査」2026年6月19日公表
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000073801.html - Willis, J. & Todorov, A. (2006) "First Impressions: Making Up Your Mind After a 100-Ms Exposure to a Face," Psychological Science
- Mehrabian, A. (1971) Silent Messages


